
教授 大塚 俊昭
このたびは、日本医科大学 衛生学・公衆衛生学教室のウェブサイトをご覧いただき、誠にありがとうございます。主任教授を務めております、大塚俊昭と申します。
当教室の起源は、日本医科大学の前身である日本医学専門学校の時代、すなわち大正13年頃にまで遡ります。長い歴史と伝統を有するこの教室の運営を託された者として、これまで築かれてきた学問的業績と教育の精神を受け継ぎながら、さらなる教室の発展を目指し、さまざまな取り組みを進めてまいります。
その一環として、当教室が今後進むべき方向性と社会における役割を明確にするため、「ビジョン」と「ミッション」を掲げました。
当教室のビジョンは、「現代社会が直面する多様な健康課題に対して、科学的探究の力をもって立ち向かい、社会全体の健康増進に寄与すること」です。
そして、このビジョンを実現するために、私たちは2つの柱となるミッションを定めています。
第一に、研究活動を通じて、実社会における健康課題の解決に貢献すること。
第二に、卒前・卒後教育を通じて、公衆衛生の視点を備えた優れた医師・医学研究者を育成すること。
以下に、それぞれのミッションに沿った具体的な取り組みをご紹介いたします。
1. 研究活動を通じて、実社会における健康課題の解決に貢献
当教室の活動当初は感染症疫学の研究が中心であり、我が国における感染症制圧の一端を担ってきました。その後、昭和後期には産業構造の変化を背景に労働衛生の領域へと研究テーマが広がり、さらに平成以降は生活習慣病や循環器疾患、健康増進など、時代の要請に応じた多彩なテーマを対象に研究を展開してきました。
このように、当教室は一貫して「その時代における社会の健康課題」と正面から向き合い、科学的知見の蓄積と社会への還元に努めてまいりました。この精神を受け継ぎながら、令和の時代を迎えた今、私たちは新たな健康課題に挑んでいます。
現代において、新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、感染症対策にとどまらず人々の働き方や生活様式(たとえばリモートワークの普及)にも多大な影響を及ぼし、これに関連した新たな健康課題を浮き彫りにしました。また、地球温暖化、PM2.5や黄砂、マイクロプラスチックといった環境因子が健康へ与える影響も深刻です。さらに、我が国特有の構造的課題として、急速な高齢化に伴う医療・介護需要の増大、認知症の増加、医療費の持続可能性、心不全など心疾患への対策も急務となっています。
私たちは「科学的探究」の力によって得られたエビデンスを社会実装に結びつけることにより、現代社会が抱える健康課題の解決を目指していきます。
2. 公衆衛生の視点を備えた優れた医師・医学研究者の育成
教育は大学における中核的な使命であり、本教室においても教育は重要なミッションです。とりわけ、急速に変化する現代社会においては、医療・保健の枠を超えた多面的な視野をもつ人材の育成が求められています。
医学部学生に対する卒前教育では、従来の基礎医学・臨床医学の知識に加え、公衆衛生的視点――すなわち「目の前の個人」だけでなく、「集団」や「社会」全体の健康と福祉の向上に貢献することの重要性を忘れずに活動できる医師の育成を目指します。また、看護学部生やその他の医療系学部生に対しても、チーム医療や地域包括ケアの担い手として必要な知識と態度を身につけられるよう、教育活動を展開します。
一方、卒後教育では、より高度な専門性と研究遂行力を育むことを目的として、大学院生や研究生への教育・指導を積極的に行います。博士課程を通じて、疫学、環境衛生、労働衛生、社会医学などの分野における基礎から応用までの体系的な知識と研究スキルを習得し、独立した研究者としての能力を養います。研究テーマの設定から論文執筆、国内外学会での発表、学術誌への投稿まで、指導教員が一貫して支援します。また、若手研究者に対する支援にも力を注いでおり、ポストドクトラルフェロー(ポスドク)や学内外の研究者を積極的に受け入れます。
私たちはこうした教育活動を通じて、「社会の健康課題を見つけ、科学で解決に導く力」を備えた次世代リーダーの育成を目指します。
公衆衛生学は、「人のいのちと暮らし」に深く根ざした学問です。その対象は個人ではなく集団であり、医療の枠を超えて、教育、福祉、環境、労働など広範な社会制度と密接に関連しています。ゆえに、私たちの活動は教室内にとどまらず、地域住民や行政機関、民間企業などとも連携しながら、現場に根ざした活動を進めてまいります。
私たち日本医科大学衛生学・公衆衛生学教室は、今後も、現代社会の複雑な健康課題に対し、科学的根拠に基づいた提言を行い、社会の健康と福祉の向上に貢献します。
今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
令和7年6月吉日
日本医科大学 衛生学・公衆衛生学教室
日本医科大学大学院 医学研究科 衛生学公衆衛生学分野
大学院教授 大塚 俊昭